昆虫が紫外線(UV)の反応して行動することは英国のラボック(John Lubbock)卿のアリを使っての実験により、1876年に発見されました。アリは自分たちの幼虫や蛹を常に光放射の当たらない暗所に保護し、仮に光放射が当たれば幼虫や蛹を速やかに暗所に運びます。この事実を利用して、ラボックはプリズムで分けた各スペクトルへのアリの反応を調べていましたが、紫や青の色帯に蛹をおくと、アリは蛹を赤の色帯に運びます。ところが紫の式帯を越えた“暗い所”に蛹をおくと、アリは真っ先に蛹を持ち去るのです。その場所に蛍光物質をおくことで紫外線(UV)の存在を確認し、紫外線(UV)をフィルターで除去するとアリのこの反応は消えます。こうして昆虫のUV認識は発見されたのですが、その後のフリッシュ(K.von Frisch)のミツバチを使った学習実験をはじめとする多くの研究、特に近年は電気生理学的手法の進歩から現在では、昆虫では一般に可視波長域がヒトの可視波長域より約100nm短波長側に偏り、赤みをみることはできない代わりに、紫外線(UV)を見ることができると一応要約されたのです。 昆虫のおもな光放射の受容器官は複眼と単眼で、紫外線(UV)も複眼と単眼により受容されます。例えば、ミツバチでは可視波長域は300~650nmの範囲にあって、複眼を構成する個眼の視細胞に微小電極を刺入して得た細胞内記録からUV、青、緑の3種類の視細胞が認められる一方、行動実験から紫外線(UV)(300~400nm)、青(400~480nm)、青緑色(480~500nm)、黄色(500~650nm)を識別することが明らかにされています。このようにミツバチやマルハナバチでは3原色型色覚ですが、ナミアゲハ(並揚羽蝶)(別名アゲハチョウ)では、赤にも感じ、合計5種類の色受容細胞(UV、紫、青、緑、赤)(5原色)の存在が認められ、昆虫の中では例外的なこととされています。しかし、ある種のハエはUVを識別しても青と黄を区別できなかったり、また、別の昆虫は単に黒と白の区別しかできないといいます。 昆虫の複眼はその部域によって各色に対する受容細胞の分布すなわち感受性が異なります。ミツバチやトンボでは紫外線(UV)や青の受容細胞は複眼の側面よりも天空を見ている背面に多く分布します。天空の青空は紫外線(UV)や青に富んでいて、この背面のUV高感受性は昆虫のナビゲーションに重要であると考えられています。複眼の腹側には緑受容細胞があり、地上の緑植物をみていることになりますが、ナミアゲハや蛾の一種では背面のほかに、腹側にも紫外線(UV)受容細胞が分布し、それは花の蜜標識の検索に役立つと考えられています。チャバネゴキブリ(ゴキブリの小型種)ではUVと青緑色の受容器が存在し、明期にUV、青緑色、白色光のそれぞれで照射すると、UVを照射したときが暗期の歩行活動が最も活発で、青緑色がこれに次ぐといいます。このことから、紫外線(UV)は昆虫の概日リズムにも関係することがわかります。概日リズムでは脳そのものが光放射を感じることが明らかにされていますので、UVが脳そのものに受容されている可能性もあります。一般に昆虫はヒトと異なり、紫外線(UV)を認識でき、紫外線(UV)をいろいろな行動・生活に利用しているというのが今日の定説です。
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